ポスト311の思想

【ポスト311の思想】
 ゲーテ(だったか)の「才能を浪費せよ」というテーゼに魅かれる。それとは対照的に、この社会は、子供を訓育し、将来金儲けして「幸せになる」ために、子供を効率良く「才能を投資せよ」というテーゼに充ち満ちているからだ。
 だから「才能を浪費する」天才――僕はヴァルター・ベンヤミンのことを想っている――が出てくると、それを不幸なものとして片づけ、あるいは君に多少なりとも慈悲心があればそれを「悲劇の主人公」にしてしまう。他方、才能の投資を悪魔に対して自ら売り込んだ最悪の御仁は言うまでもなくアルバート・アインシュタインだ。プリンストンの静謐な森の静かな意思が――彼自身がはたしてそれを望んでいたかどうかは不詳だが――期せずして、我が同胞の「無垢の死」の悲しみを、東方の凶暴な黄色猿の絶滅を通して払拭するという恐ろしい節合が可能になったのだ。
 アインシュタインの大きなアイコン(顔写真)はかのIT長者で似非哲学者であったスティーブ・ジョブズの豪奢な自宅に掲げられることになる。スティーブも紆余曲折あるが「才能を投資」し成功した人間だ。この写真はノーム・チョムスキーの研究室にある大写しのバートランド・ラッセルの白黒写真と陰画のように見事に重なる――チョムスキー平和運動への時間の投資は言語学研究の時間にとってまったく浪費だと「正しく真意を表明している」。
 さて、アルバートに戻ろう。そのようなアインシュタインの「豊かな才能の投資」の結果の恩恵を僕たちもまた享受することになる、福島第1原発のGE製のお釜がぶっとぶまではね。