認知症者の徘徊が起こした事故の賠償責任

認知症者の徘徊が起こした事故の賠償責任】
【なるほどいろいろ考えるべきことがあるようです】
 遭難者の捜索費費用の負担について「捜索費は公費負担だと思います。旅行者の管理責任がある代理店は大目玉を喰らうでしょうが、損害ではないので賠償請求は求められないと思います」と書いたら、実際に捜索費用が請求されたというケースがあることが判明しました。
 指摘された当該の記事(2次引用)をみると「勝山市によると、請求するのは、救助隊に参加した地元山岳会員延べ15人への謝礼や食料費40万円▽臨時へリポート設置費55万円▽対策本部の事務用品費10万円▽部員の家族のバス・タクシーチャーター費8万円−−などで、外部に支払うものを対象にした」とあるように、行政執行当局が「外部委託」した際に「公費で支弁できない」経費に関してのものです。社会制度がなぜこのような公費負担を原則としているかは、私が推測するに、親族などの関係者が費用負担を嫌い罹災者の救援に躊躇するというモラルハザードが起こらないようにするためだと思います。つまり近代社会のヒューマニズムの原則が崩壊しないためと推測されます。
 そういえば過日、認知症老人のが親族が目を離したすきに線路に立ち尽くし死亡した事件で、電鉄会社が損害賠償を請求し、不払いのために訴訟を起こされ、遺族が敗訴したケースが紹介されていました。徘徊者の保護責任の中に、損害賠償責任があるかが問われたものでした。
 新聞の記事は「認知症者の徘徊には限界があるので親族には不安をもたらす」風の解説があって、僕はその朝日新聞の記事の記者の解説の姿勢については疑問をもちました。
 鉄道事故における自殺者と徘徊者をむしろ同列に扱う、電鉄会社の損害賠償の論理をむしろ問題にすべきであり、もし、そうであるならば、より詳しい裁判過程と、争点についてのジャーナリストらしい鋭い切り口が可能であったのに、単なる介護者の苦悩というエピソードでお茶を濁していたからです。
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出典:http://apital.asahi.com/article/dementia/2013092700005.html

認知症とわたしたち

【介護・高齢者】

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家族の責任、どこまで 徘徊中、線路に…遺族に賠償命令

認知症とわたしたち」取材班

2013年9月28日

 家を出て徘徊(はいかい)していた認知症の男性が線路内に入り、列車にはねられて亡くなった。この男性の遺族に対し、「事故を防止する責任があった」として、約720万円を鉄道会社に支払うよう命じる判決が出された。認知症の人を支える家族の責任を重くみた裁判所の判断。関係者には懸念の声が広がっている。


■妻がまどろんだ一瞬

 事故は2007年12月に起きた。愛知県に住む当時91歳の男性が、JR東海道線の共和駅で、列車にはねられて死亡した。

 男性は要介護4。身の回りの世話は、同居する当時85歳の妻と、介護のために横浜市から近所に移り住んだ長男の妻が担っていた。この男性が外に出たのは、長男の妻が玄関先に片付けに行き、男性の妻がまどろんだ、わずかな間のことだった。

 男性はホームの端から数メートルの線路上に立っていたところ、列車にはねられた。線路に入った経路はわかっていない。事故で上下線20本が約2時間にわたって遅れた。

 JR東海は、男性の妻と、横浜市で暮らす長男を含めたきょうだい4人に対し、振り替え輸送の費用など損害約720万円の支払いを求め、名古屋地裁に提訴した。

 JR側は、遺族には「事故を防止する義務があった」と主張。訴えられた遺族側は、徘徊歴は過去に2回だけで事故の予見はできなかった、などと反論した。

■判決「見守り怠った」

図表拡大

 今年8月に出された判決は、死亡した男性には「責任能力がなかった」とし、遺族のうち男性の妻と長男の2人に賠償責任を認めた。

 長男は、家族会議を開いて介護方針を決め、自分の妻に男性の介護を担わせていたことから、「事実上の監督者」と認定した。さらに徘徊歴や見守りの状況から事故は予見できた、と指摘。男性の認知症が進行しているのに、ヘルパーの手配など在宅介護を続ける対策をとらなかったなどとし、「監督義務を怠らなかったと認められない」と結論づけた。死亡男性の妻についても、「目を離さずに見守ることを怠った」とした。

 一方、他のきょうだいは、遠くに住むなどの事情で、家族会議に参加しないなど、介護に深く関与していなかったとし、責任を認めなかった。

 遺族代理人の畑井研吾弁護士は「介護の実態を無視した判決だ。認知症の人は閉じ込めるか、施設に入れるしかなくなる」と批判。長男らは名古屋高裁に控訴した。

 JR東海によると、飛び込み自殺などで運休や遅れが発生した場合は、損害の請求をするのが基本的な立場。ただ訴訟にまで発展するケースはここ数年は例がないという。同社は「認知症の人の介護が大変だということは理解しているが、損害が発生している以上、請求する必要があると考えた」としている。

(中林加南子、立松真文)

■施錠しかないのか

 長男(63)のコメント 判決が指摘する「(出入り口の)センサーを切ったままにしていた」「ヘルパーを依頼すべきだった」といった事項を全て徹底しても、一瞬の隙なく監視することはできません。施錠・監禁、施設入居が残るのみです。父は住み慣れた自宅で生き生きと毎日を過ごしていましたが、それは許されないことになります。控訴審で頑張るしかないと思っています。


■「補償の仕組み必要」/無施錠の施設、落胆

 65歳以上の高齢者のおよそ7人に1人が認知症と推計されている。家族や関係者にとって判決は重く響く。

 認知症の人と家族の会(本部・京都市)の高見国生代表理事は「あんな判決を出されたら家族をやってられない。責任をまるまる家族に負わせればいい、というのではダメだと思う」と判決を批判。一方で「認知症の人の行動で他人に損害が生じうるのは事実。何らかの保険のような、補償の仕組みを考える必要があるのではないか」と語る。

 NPO法人「暮らしネット・えん」(埼玉県)が運営するグループホームは、カギをかけず認知症の人が自由に出入りできる。本人のペースを大事にするためだ。外に出ようとしていれば職員が付き添う。ただ注意しても、気づかぬうちに利用者が外に出かける状況をゼロにはできない。無施錠の方針は監督責任のリスクと隣り合わせだ。小島美里代表理事は「(判決の考え方で)今まで積み重ねてきたことを無視された気持ちになる。怖くて、事業をやめたいとすら思う」と話す。

 「安心して徘徊できるまち」を目指す福岡県大牟田市。今月22日に、徘徊で行方不明者が出た想定などで恒例の訓練を実施した。井上泰人長寿社会推進課長は「徘徊者に声をかけるなど、地域で見守る意識を高めることが、ますます大事になる」と語る。

 認知症ケアが専門の柴田範子・東洋大学准教授は、徘徊事故防止に関して、鉄道という公共性の高い企業の責務を指摘する。「鉄道会社は認知症についてきちんと知っておくべきだ。その知識を踏まえて、駅や踏切で事故のリスクを軽減する対策を取ってほしい」

編集委員・友野賀世)

■事故までの経過

00年    男性の認知症に家族が気づく
02年    長男の妻が男性宅近くへ転居 男性に要介護1の認定。デイサービスへ通い始める
05、06年 夜中に2度徘徊
07年    要介護4、常に介護が必要な状態に

【07年12月7日 事故当日】

午後4時半ごろ   男性がデイサービスから帰宅、妻や長男の妻とお茶を飲む。長男の妻が玄関先へ片付けに。妻がまどろむ間に男性が外出
午後5時ごろ    妻と長男の妻で、男性の散歩コースを捜すが見つからず
午後5時47分ごろ JR東海道線共和駅で事故発生