発見の学としての文化人類学

人類学
1.自然人類学
2.社会人類学文化人類学民族学
3.考古学
4.言語学

文化人類学の構成要素
民族誌
民族学(比較民族学

(1)文化の定義
リオノール・ノラン「自らの世界を形づくるための固有の方法」であり集団や社会により「共有されるもの」(3ページ)

・文化の意義
メンバー(成員)に対して経験を組織化する、理解し、他者に伝達することができる。生産性を高め、創造力を育む。環境や社会に対するメンバーの適応能力を高める。世界の構造化に寄与する。

・文化の構成要素
1.人工物、2.行為、3.知識
(池田による言い換え:1.環境、2.実践、3.認知)

(2)文化的差異
差異、現在では多様性とも言われる。人類における差異、文化における差異、社会の内部における差異、個人間の差異など

・習得の自然化
長い人生の生活のなかで獲得されたもの(=文化)は、自然化される、つまり、それが当たり前で、普通で、また他の集団の人のものよりも「良いもの・優れたもの」に見える(→自文化中心主義)。慣習は自然化されたものの典型であり、しばしば第2の自然(second nature)という。あるいは同語反復性:「豚は不潔だから豚と呼ばれるのである」(豚=不潔という結びつきが自然化されている。豚は動物行動学的には〈知的で清潔な動物〉)

・自民族中心主義(ethnocentrism)
複数の民族的「他者」に対して、自己の民族とは異なった存在であり、かつ自分たちが他者よりも優越する価値を有するという倫理的態度のこと。倫理的とは、その態度が人々に対して価値判断を含む感情を生み出すから、善悪の判断もまた含まれるからである。

・文化的認識(cultural knowledge)
文化的認識は、自分の文化に対する再帰的な知識のことである。まず文化的認識は、その文化に対する自己反省的な意識から生まれることがある。また、先の自民族中心主義という自然化のために、他者や他文化の存在やその世界に異文化の人が飛び込むことが、そのような自然化を当たり前にしないという反省的経験を形作ることがある(例:フランツ・ボアズの恋人に対する手紙にみる「文化相対主義」の誕生)。

・文化相対主義(Cultural relativism)
他者に対して、自己とは異なった存在であることを容認し、自分たちの価値や見解(=自文化)において問われていないことがらを問い直し、他者に対する理解と対話をめざす倫理的態度のこと。

(3)接触する諸文化
異文化の接触は、無知、無視、恐怖、衝突、寛容、融和などの反応を引き起こす(自文化中心主義から文化相対主義へのスペクトルに応じて)。異文化に対する反応は、これらのリアクションのレパートリーが交互に現れるなど、歴史的に社会的に多様なパターンをとる。つまり「異文化間の人の集団ではかならず紛争を引き起こす」という見解は必ずしも正しくない(類似の例として、万人の万人に対する闘争という「リバイアサン・テーゼ」)。逆に、人間は生まれながらの平和的動物という理解も極論で正しくない。

人類学者の行動や信条(credos)
1.フィールドワーク
2.参与観察
3.相対主義
4.全体論
5.領域分析

フィールドワーク
フィールドワーク(field work)とは、研究対象となっている人びとと共に生活をしたり、そのような 人びと[インフォーマント]と対話したり、インタビューをしたりする社会調査活動のこと、である

参与観察
参与観察(participant observation)とは文字通り、人びとがおこなうイベント(祭礼、儀礼、結社、偶発的行事など)に参加することを通して、観察データをえること。

相対主義
もし異文化理解のための学問的解説が、いかがわしいインチキや理想論ではなく、正しく学問する対象として認められるようになった社会的要因について考えるための恩恵を被っているとすれば、その感謝はまず、パウル・ファイヤアーベント(1924-1994)に捧げられるべきであろう。なぜなら、彼は『自由人のための知』(1980)において正統派の医学「バイオメディシン」は、国家権力と結びつき、特権的価値が与えられていることを告発したからである。正統医学はひとつの知的伝統をもつのであれば、非正統医学もまた同等に取り扱わねばならないからである。国家権力への布置によるこの知的バイアスを修正する思考装置のことを彼は後に「民主的相対主義」(邦訳 1992:61-71)と呼ぶようになる。
ファイヤアーベント、パウル 1992[1987]「相対主義に関するノート」『理性よ、さらば』(第1章)植木哲也訳、法政大学出版会

「寛容であること」と相対主義の関係
【作図】

全体論
全体論(holism)とは、全体は部分の総和以上のものがあるという見解。要素論や、要素還元論(要素還元主義)と区分される。ただし、全体主義(totalitarianism)は政治学の用語で全体論とは無縁なので注意すること。

領域分析
領域分析(domain analysis)とは 、文化領域(cultural domain)という仮説やビジョンにもとづいて、人間の経験を秩序づけるためのカテゴリーの文化領域をあぶりだす手続きのこと。では文化領域とは、ローカルな社会習慣のなかで重要な意味をもつ生活領域や生活分野(area of life)のことをさす。

領域分析の手順(Spradley 1979,1980; Nolan 2002:17)
1.領域を規定する
2.領域の構成要素を明らかにする
3.構成要素の関係を明らかにする
4.編制されている規則を明らかにする
5.関連する諸価値を探す

開発とはなにか?
ここでいう開発(development)とは社会開発(social development)のことである。社会開発とは、人間の成長と発達(development)という隠喩的表現を借りた、社会の成長と発達のモデルのことであり、「開発させたい」対象となる社会を、外部からの力(=援助)と内部からの潜在力(=内発的開発の能力)をマッチングすることで、それに関わる人たちにより、彼らが社会を「よりよい方向」へと変化させることを意味する。

社会開発のキーワード
改良(improvement)
エンパワメント(empowerment)
参加(participation)