アイヌと先住民

皆さんへ

先般の授業はちょっと引っかき回してごめんなさい。でも、人類学者は文化事象の解釈についてはともなく、事実関係については正確に発言しないとなりません。さらに気になることと、その後の調べでわかったことについて補足説明しておきます。
先般の授業のなかで、日本政府がアイヌを先住民として認めている趣旨の発言がありましたが、これも正確に言うと「正しくない」のです。
というのは、日本は2007年の国連先住民権利宣言に賛成票を投じましたが、同宣言には「先住民(族)」の定義がないために、日本政府は「アイヌ先住民族であるかどうかは、権利宣言に後者の定義がないので、そのような判断はできない」という見解をとっているからです。
権利宣言に先住民の定義がないための問題については、清水昭俊論文(『国立民族学博物館研究報告』32(3): 307-503, 2008)を参照してください。1993年の草案には自称による決定権の条項がありましたが、これが消失したのはなぜか?ということについて、清水論文はすばらしい謎解きをしています。
また、この政府見解については、私じしんがウェブページを作りましたので、どうかご参照ください。
◎我が国(日本国政府)のアイヌならびに先住民に関する認識の現状(2007年11月20日
http://cscd.osaka-u.ac.jp/user/rosaldo/090529ainu&indigenousP.html
私が、アイヌのことにこだわるのは、私がグアテマラの先住民の調査研究をしているからです。グアテマラ政府とマヤ先住民と、日本政府とアイヌ先住民についての、法的権利関係については、どうしても職業的に敏感にならざるをえないのです。
今度の日曜日の文化人類学会の9時から、グアテマラ先住民については学会発表します。もし、表番組で特段興味がわかない発表ばかりでしたら、ちょっと早めに起きて、会場にお越し下さい。