すりする議論(刷り版[す―もちろん当字]りするギロン)

mitzubishi2009-02-07

早川書房 御中

垂水源之介と申します。
アリエリー『予想どおりに不合理』を読んでおります。原文とともに小気味よい翻訳でよい本だと思っています。さて質問なのですが、奥付には、初版初刷ではなく、初版、三版などと表記されていますが、御社では以前より、このような表記体系をお使いなのですか? クレイムという目的ではなく、純粋に書誌学的な興味から質問させていただきました。

(回答:必要部分―改行等改変)
早川書房◎◎◎◎◎と申します。
小社の書籍をお読みいただいているとのこと、どうもありがとうございます。
ご質問の件ですが、小社での単行本奥付の表記については、かなり以前より、ご指摘いただいた体裁を使っております。現在流通している書籍においても、各版元によって「版」「刷」の使い方はまちまちのようです。巷間言われているように、もともとは活版時代からの継承であって、本来は、重版に際して訂正箇所などの内容にまで手を入れて版を組み直すか、元の版のままで刷り増しをするのかという違いによるのでしょう。何版何刷とその都度厳密に表記することが望ましいのかもしれませんが、程度の線引きが厄介なことや、簡略化のためなどから各社とも(辞書などの特別な場合を除き)どちらかの奥付に決めているのではないでしょうか。
小社においては、長い歴史を遡ることになり、立ち上げ時点での経緯について私には推し量るしか術がありませんが、現在でも重版に際しては著訳者にも確認の上、修正赤字があった場合は常に反映させるべく努めていることからも、特にオリジナルの出版物である単行本は重版時に版をあらためる機会が多いことから「版」を使っているのではないかと考えています。ちなみに文庫に関しては重版に「刷」をつかっており、おそらく発刊当時には、完成された単行本からの文庫化のケースがオリジナルものより遙かに多かったことに起因しているのではないかと考えられます。

(謝辞)
なるほどそうですか。
大変参考になりました。
垂水源之介
[追伸]
刷ではなくすべて版になっていた場合は、学生や院生が文献リストを作成する時に、奥付をみて書誌を記載する時に、文献中にページ指定をおこなっている場合は、その書誌にあたる際に(このような事情を知らない学生は)ちょっとした混乱をおこす可能性が出てくるかもしれません。他方興味深いのは、「例外」の勉強のためにもこのようなパロキアリズム[局地的用法主義]があることも、出版界の多様性を理解するためによいことかもしれません。