病いを直す?、あるいは正しく病む方法

これまでの「病いをなおす」シリーズの3番目の講演として、これまで学んできたことを医療人類学という学問の枠組みから考えてみた。講演の前半は、人間のライフサイクル(一生)になぞらえて医療人類学関連の研究テーマを思い起こし、後半は学んだ知識を社会制度における疾病史の枠組みのなかでとらえなおした。ライフサイクル論とは、人間の一生をサイクルと繰り返しとして考える見方で、それぞれ誕生、幼児、子ども、思春期、結婚、出産育児、中壮年(子離れ期)、老年、死、葬儀、神霊や魂と続き、再び誕生という人間の人生の段階における医療人類学上のトピックを紹介した。医療人類学とは、健康と病気を対象にした人類学的研究のことであり、これまで文化人類学が「人間(man)=オトコ」の研究であったことを反省し、人類(human being)の研究へと向かわせたのは、男女ならびにクイア(おかま、など男女の範疇に収まらない新興ジェンダー)に関心がある医療や保健の研究である。アジアの広域的医療について紹介し、それを医療的多元論という見方で考えてみた。また伝統医療は近代医療の隆盛とともに衰退するのではなく、近代国家が国民主体の政治にその方針転換を切るときには、むしろ復権・復興することを述べて、21世紀はアジアの広域的地域では医療的多元論がさらに進展することを予想した。進化生物学の成果を取り入れつつ、生物医療の[批判的]人文科学研究の発達により、医療人類学は今後益々、社会的影響力を増す可能性があることを指摘した。