IRB(施設内委員会)における逸脱違反ケース(事例)

医科研の朝日のスクープだが、2つの水準で考えてみよう。まず(1)文科省がすすめている全国の国立大学法人の自己裁量にもとづく附置研の改廃に関する通知と、特別教育研究経費の「拠点形成」から共同利用への申請カテゴリーへの変更と文科省による、全国大学共同利用施設の直轄管理化の方針の打ち出し、という全体的な動向のなかでの、この事件だ。医科研は、予算の重点的配分による文科省直轄よりも独立採算をとれるような体制作りのために、(国家の)予算化をしない方針を早々と打ち出した組織である。次に(2)朝日が、どのようにしてこのような情報を入手し、またT教授自身からの取材を取得しているのかということに関して、取材のプロセスのブラックボックス化(=取材倫理の不明瞭な点)、ということだ。一昔前のジャーナリズムは、そのようなスクープもありかなと思われるが、どうも医科研内部からの情報提供にもとづくものでもあるようなニュアンスでも記載している。正確に報道するという観点からは、時代遅れの新聞記事の感は否めない。
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東京大学医科学研究所で白血病など難治性の血液疾患を研究している分子療法分野研究室=T教授(52)=が中心となって発表した論文で、研究倫理をめぐる虚偽記載が繰り返されていたことが朝日新聞の調べでわかった。実際には受けていない倫理審査委員会の承認や血液などの検体の使用の同意を得たと偽った論文が、少なくとも3本あることが判明。教授は取材に対し、自らも虚偽記載をしたと認め、論文1本をすでに撤回した。
 医科研は、他の論文2本についても虚偽記載の疑いがあるとみて調べているが、今後、臨床研究にかかわるすべての研究室を対象に調査・点検を始める方針だ。医科研のS所長は取材に「非常に不適切で残念。検体を提供してくださった患者やご家族に申し訳ない」と謝罪した。
 ヒトから細胞や血液を採取して使う研究は、患者の体に負担がかかるうえ、その個人情報保護にも特別な配慮が必要だ。各機関の倫理委による研究計画書の事前審査や、十分な説明に基づく提供者の同意がなければ研究を認めないのが国際ルールで、03年7月にできた国の指針もその順守を求めている。
 しかし、取材を機に始まった医科研の内部調査でも、指針が適用されて以降、国内外の医学誌に発表された論文5本に倫理面で虚偽とみられる記載が発覚。撤回された論文は白血病の悪性度の測り方が研究テーマで、今年5月にイタリアの医学誌「ヘマトロジカ」にT教授を責任者とする研究室のメンバー4人の連名で発表していた。
 この研究では、医科研付属病院で89〜03年に急性骨髄性白血病の患者5人から採取された骨髄と末梢(まっしょう)血を使用。倫理委の承認を得たり、文書による患者同意を掲げた世界医師会のヘルシンキ宣言に従ってすべての患者から同意を得たりしたと記載していたが、T教授によると、実際には倫理委を通さず、同意も一部からしか取っていなかった。
 また、同じ研究室の別の研究者が責任者のケースでも、04年に米血液学会の公式誌「ブラッド」に掲載された論文2本で倫理審査の虚偽記載が判明。実際は受けていないのに「医科研の倫理委に承認された」と記していた。現在、医科研が患者の同意文書の有無について調べている。
 医科研によると、さらに別の論文2本でも、研究用の同意文書をもらっていないのに「書面で同意を得た」と事実と異なる記載があった。倫理委で承認を受けながら、研究用の同意を得ずに研究を進めたケースも1件あった。
 こうした論文の基礎となる研究には、文部科学、厚生労働両省の科学研究費補助金の対象も含まれている。文科省は「倫理面の虚偽記載は論文の捏造(ねつぞう)にも等しい」との見方で、科研費の停止措置などに至る可能性もある。
 T教授は医科研付属病院副院長や血液腫瘍(しゅよう)内科長も兼任。同科は臍帯(さいたい)血移植で世界有数の治療成績をあげている。(西川圭介、小倉直樹)」(出典:http://www.asahi.com/health/news/TKY200807100371.html