拉致問題:公定イデオロギーと実態の乖離

官房長官のコメントは政府の公式な意向(ブッシュからの首相の電話によりそれも承認ずみ)であり国民が大きく否定しない(=すくなくとも消極的には是認)という点で公定イデオロギーのひとつに入るだろう。
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町村信孝官房長官は26日夜、ハドリー米大統領補佐官(国家安全保障担当)と電話で会談し、米国政府が北朝鮮のテロ支援国指定解除を決めたことについて「日本国民はショックを受けている」と伝えた。さらに、「それを意識した上で、核問題や拉致問題に対処してほしい」と述べ、拉致問題の進展に向けた米側の協力を要請した。/電話会談は、指定解除について説明するため、米側からの申し入れで行われた。ハドリー氏は「日米で連携して拉致や核の問題に取り組むことに変わりはない」と強調した」(http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20080626-00000193-jij-pol)。
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こう見ると、事後的解釈にはなるが、山拓と安倍のバトルは、前者が北朝鮮民主化構想にこれまでと異なった(=核の脅威がなくなった文脈のなかで)戦略で望む米国(米帝?)への追従あるいは尻馬にのった経済開発派の流れであり、後者は拉致問題という未解決のアポリア――というか解決は北朝鮮民主化と中長期的に関連する――を楯にとった「無手勝流の右翼」という構図の対立になる。拉致問題の全容解明には、北朝鮮の現在の国家制度の大幅な改変(あるいは崩壊)を待たずして実現するのは無理というのが、政府の「本音」でもあるだろう。そもそも政府与党の、拉致問題解決の枠組みは、小泉=金正日のボス交渉でなんとかなるという無謀な企ての呪われた遺産なのだから……。拉致問題は、むしろ多国間における人権保障問題であり、従軍慰安婦問題などの検討や長期的な和解プログラムを含めたものと、同様の枠組みで論じられるべきであろう。そうすると、消費者庁のような「外交人権問題の解決をめざすアドホックな政府委員会」のようなものが必要になる。日本が人権擁護国家に生まれ変わるというプロセスのなかで、拉致問題の解決を国際社会に訴え、全容の解明をめざし、失踪者のための国家(=北朝鮮)賠償という具体的な解決へと動き出すほうが、遠回りするように思えるが、スキームを組み直し、拉致問題を全国民的問題として取り扱えるのではないだろうか。