授業の構築に関するお手紙

【1】代理母のワーク1、2ともに二者択一の選択肢になるので、議論の誘導が論争形式になっています。医療機関の決定や政治家ではないのだから、この論理に回収させる議論のやり方は、文化相対主義的な思慮を涵養する文化人類学の教育にはあまりよい手法とは言えない(経営学大学院や司法大学院なら別だけどね――もうかりまっか?とか法廷で勝つ!という議論に限界があるのはご存じのとおり)。
【2】書名の更年期というタイトルがよくない。センスのないみすず書房は書名選択の時点でマーガレット・ロックの書籍の内容をミスリードしているんだろう。Encounters with aging : mythologies of menopause in Japan and North America らしいからいっそのこと原著名を出しておくのは?――授業時間帯内に学生たちが電子辞書を使って閉経を調べたってかまわない。我々の生活そのものが情報論的にはオープンシステムでやっているのだから。もし、こういう原理を一般化したら、君の「更年期」というタイトルを出すと「ワークの意味がなくなる」という主張も説得力をもたなくなる。書名を出そうが出すまいが、誰かが「更年期の議論ちゃうか?」というふうに議論を誘導するかもしれないし、(前回の授業のように出題者の趣旨とは無関係の)滅茶苦茶な主張(=「よい出産をしましょう」)をするかもしれない。結局、この部分の「更年期」の書名の有無による議論が分かれるかどうかは、会場を2グループに分けて、その部分だけを入れるか否かで出題をして、後の議論に差が出るかどうかという実証実験をする以外に、君の疑念を晴らすことはできないかもしれない。これについては2種類の書類を作って班で分ける方法をとらないかもしれません。ただし、その場合は、授業中に教師は余計な指示や介入を避け、時間管理のみに徹しなければなりません。
【3】ミードの課題を挙げたのは面白いが、サモアは現象の記述、北米は現象なのか指示(〜しさない)かが曖昧になっています。この2つの異なった文章(文体)から共通のシナリオを書かせるのは指示としては適当ではないかもしれません。問題文の作成はよいので、事例文もうちょっと(あと2,3の社会で)探し出してください。これは、将来の君の授業のための資料のストックになるだろう。