ハイデガー『ヒューマニズムについて』の冒頭の語り

「思考というものは、思考そのものから或る結果が生まれたり、あるいは思考がさし向けられたりして、初めて動き出すのはでありません。思考は考えることによって、動くのです」(p.12)。
「思考そのものはそこでは技術(テクネー?)として、即ち行動や制作のために熟考する方法だと、考えられています。だが熟考するということはここではすでに実践(プラークシス?)と制作(ポイエーシス?)とをにらみ合わせて考察せられています。だから思考は、それだけで考えるなら《実践的》でないのです。思考を観想(テオリーア?)として特色付けたり、認識作用を《理論的》態度として規定したりすることは、すでに思考の《技術的》解釈の内部で行われているのです。このようなことは、行為や行動に対して思考をも救い出して独立させようとする反動的な試みであります(pp.13-4)。
佐々木一義訳『ヒューマニズムについて』理想社、1974年