他人を抑圧してはならない

【自由を希求する者は他人を抑圧してはならない】
 いや、何度読んでも、感動するアーレントの権力概念の特異さ――もちろん良い意味で。彼女は、ヘーゲルが(精神現象学で)主人と奴隷の弁証法で、西洋の歴史ではじめて「他人を抑圧する者は自由にはなり得ない」ことを〈証明〉したという。そして、これは、初期から続くキリスト教が要求していきたこと(=自由を希求する者は他人を抑圧してはならない)だと言うし、それは「自由概念の革命的転回」であり、さらに瞠目すべきことに〈政治一般〉が可能になる途を開いたというのだ(『思索日記』1952-53年)。なんということだ!この思想は、アウグスチヌスを取り上げた彼女の学位論文の中にも胚胎していると、僕は強く思う。