高校生のための倫理学入門

前略
哲学科は(今は知らないが)昔は、文学部で哲・史・文(哲学→歴史学→文学)の順で一番、プライオリティが高かった。熊大でも数年前まであって、現在は改組されている。
http://www.let.kumamoto-u.ac.jp/outline/index.html
なお、この写真の髭の大熊先生は、フランス文学のゆかいな先生です。
さて、哲学教室には、哲学・倫理学という呼び方があり、哲学と倫理学は、後者が前者に包摂されるものの、倫理学はとても重要な位置を占めていた。
倫理学の名著中の名著はアリストテレス『ニコマコス倫理学』だが、これは古代ギリシャの書物で、なかなか難しいし、記述が現代風でないので、最初は難しいかもしれない。
もっともおすすめは、ジョージ・ムーア(G. E. Moore, 1873-1958)『倫理学原理(Principia Ethica)』で、ジョン・メイナード・ケインズが、大学に入学した時に、ムーアのこの本を読んで眼を覚ましたというぐらいの本。昔から日本語の翻訳があり、最近新訳が出た本。ただし、この本は、倫理とは何かということを教えてくれる本ではなくて、倫理について考えることとはどういう意味があるのか?善いという判断とは何か?について考える本で、ムーアに言わせると、「善い」という判断は、事物がある/ないという判断とは、根本的に異なるので、定義不可能という結論を提示している。ムーアによると、「善い」という判断を、事物がある/ないという風に取り扱う奴(=自然科学的に物質がある/ないという判断をする連中)は、定義できないものをある/ないというという意味で誤っていると指摘しました(これを「自然主義的誤謬[ごびゅう]naturalistic fallacy)という。だから、これは倫理学ではなく、メタ倫理学、つまり、倫理学の枠組み全体のなりたち云々を考察する学問だと言われました。
ムーアの倫理原則や自然主義的誤謬の指摘は、(さまざまな批判もあるけれど)その後の英米哲学に決定的な影響を与えて、ウィトゲンシュタイン、その他の科学哲学や道徳哲学の展開の基礎をつくった。多分、ライルのような日常言語学派や、英米哲学の本流のプラグラマティズムにも独特を地位を占めているのでないかと思います。あまりよい影響とは思えないけど、ラテン語ギリシャ語など古典語や概念が出てこないので、英語だけで哲学ができるようになったという意味でも、英米哲学の近代化を遂げたという考え方もできる。
というわけで、最終的には学ばねばならないが、まず日本語や英語で哲学できるという意味では、ムーアあたりがよいのではないでしょうか?
ハイデガーやカントが難解すぎてダメなように、ドイツ哲学はヘーゲルから、フランス哲学はルソーから入るのがよいと言われるように)
敬具