火葬の〈習慣〉

「棺桶の中に故人の愛するものを入れて火葬に付す」――ふつうの人類学的解釈では〈人びとは死後の世界にもそれを持参すると人びとは信じる〉と書かれるはずだ。ただし故人の愛着物を燃やさないのは気持ち悪いからといって、すべてのものが焼尽されるわけではない。あくまでも〈象徴〉物が遺体と一緒に焼かれる。もっとも、強い愛着物と共にあの世に送り、この世に戻ってくるなという呪詛あるいは〈祈り=祈願〉とも思える。ただし、この行為を正当化する議論は、現代日本人ならいくらでも挙げることができようが、肝心の〈どの程度信じるのか〉〈本当にあの世にいくのか〉ということについて、確証をもって発言することはないだろう。せいぜい〈そうなってほしい〉あるいは〈古くからの習慣〉をおこなっているのであって、それは、信じる/信じないの次元を超えた、ア・プリオリな実践行為なのだ、と言わざるをえないし、このことは多くの日本人にも受け入れてくれることだろう。