再録備忘

「甘く見られないように(2)・・・「どうせガンは多いのだから」(武田邦彦
 最近ではさすがに少なくなったが、3月から5月にかけて、放射線防護が専門のお医者さんや原子力安全委員長を歴任した方、そしてこれまで放射線被曝については批判的な態度をとってきた朝日新聞のように「どう見ても社会をリードする人やマスコミ」が、「どうせガンが多いのだから、1年100ミリ被曝しても大したことはない」と繰り返し発言してきた。
 人間は全員が死亡するが、死亡した時の原因を分類して「ガンで何人が亡くなった」という統計と、東電がヘマして原発が爆発し、不意に児童が被曝してガンになるのは質的に違うので、もともと数字で比較するのがおかしい。
 でも、それを言っているのが専門医、国の高官、それに巨大マスコミともなるとそれなりに反撃も理論化しておかないと多くの人が困る。事実、自治体や教育委員会などは、権威に弱く自らは考えようとしないので、同じことを言って住民を苦しめている例が見られる。
 そこで、一応、ここでは相手の立場にたって、質の違うものだけれど数字で比較してみたいと思う。
 1年で死亡する日本人は、約110万人だ。人口が1億2000万あまりで、平均寿命が83歳ぐらいで、今でも少し平均寿命が延びているので、計算はおおよそ合っている。
 その中で、死亡の原因がガンの人は、男性が20万人、女性が13万人で合計33万人だから、ちょうど30%に当たる。私が国会の委員会で参考人陳述をしたとき、原子力安全委員長を経験した高官が同時に陳述をしたが、そのときに「ガンは30%、あるいは50%と言ってよい」と自分の論旨に都合の良いように数字を誤魔化していた。
 病気や公害などでの被害者数を示すときには「10万人あたり」で示すことが多いが、ここではもっと直接的な感覚で比較したいので、福島原発で被曝した人(多い人も少ない人もいるが)が日本人の10分の1ぐらいとして1000万人を基準としたい。
 そうすると、ガンが死亡の原因となる人は「1年に2万7000人」である。これに対して、1年1ミリ被曝した人がガンにかかる確率は0.5%で、これは放射線防護のお医者さんも、マスコミ、私も同じ数字を使っている。つまり、1年に100ミリの被曝をすると、1000万人で5万人がガンになる。
 ただ、ガンになっても治癒率(5年間にガンが再発しない比率)は適切な治療を受けたときには6割、治療を受けない人も含めると4割とされているので、3万人が被曝によってガンになり、それが原因して死ぬ可能性が高いことを示している。
 【第一結論】
 1年1ミリを被曝すると、ガンにかかって死ぬ可能が2倍に増える。
 次に年齢のことを考えてみたい。最近、ガンが増えてきたのは発がん物質が急に増えたのではなく、寿命が延びたからだ。ガンというのはある種の自己的な病気で、どうしても年をとると遺伝子などに傷ができてガンになる.普通は60歳までのガンというのは少ない。
 数字で言うと、60歳までは10万人あたり50人レベルだが、80歳になると2500人となり、実に50倍になる。普通のガンが「老人病」であることがハッキリわかる。
 これに対して、被曝については広島原爆の例では、白血病では10歳以下は全年齢に対して3.4倍、白血病以外は2倍で、平均して3倍程度である。従って、若年のリスクという点だけでは、普通のガンに対して被曝のガンの危険性は150倍にもなる。
 やや、ややこしい数字だが、これも広島原爆の記録を見ると、10歳以下で被曝した子供が20歳までに死亡した確率は、10歳以下で被曝しなかった子供に比べて44倍(原爆被爆データ。日本アイソトープ協会からICRPに報告した1992年発表)とされている。
 【第二結論】
 1年1ミリを被曝すると子供はガンの危険性が150倍になる。
 私がこの記事を書いたのは、何も知らず、ただ親や大人を信じて元気に生きている子供を被曝から守ろうとしている方に少しでも反撃の手立てを示したいからです。
 相手は「日本人の30%がガンで死ぬのだから、1年1ミリ被曝しても0.5%しかガンにならないのだから、大したことはない。60分の1だ」と言います。これにはトリックがあるのです。
 一つは、1年間と一生を隠して比較していることです。1年1ミリ被曝するということはそれによってガンになる確率が0.5%であると言うことです。だから、「日本人の30%」ではなく、1年で33万人、つまり0.27%が普通に1年でガンで死亡する確率なので、それに再発率を考慮して0.45%になります。
 また、80歳以上で死亡した原因がガンだったというのと、10歳の子供が被曝によってガンになり、死亡するのとではまったく違うので、子供のガンを比較しなければなりません。小児ガン(0−14歳)の発生率は10万人あたり8人で、全年齢では270人(男女に分けると平均135人)と比較すると34分の1です。
 以上のことから次のように反論してください。
「日本人のガンが30%というのは普通に死ぬときの比率ですから、ガンになる比率を1年あたりで示しますと再発率を加味して0.45%に当たります。これに対して1年1ミリ被曝すると0.5%がガンになりますから、被曝によって{普通にガンになる(0.45%)+被曝でガンになる(0.5%)}で約2倍になるということです。
 また子供に限定すれば小児ガンの発生は34分の1ですから、子供は0.013%しかガンになる可能性がないのに、それが放射線の感度も加味すると子供は、全年齢の0.5%の3倍の1.5%の確率になりますから、1.5÷0.013で100倍以上もの危険性を負います。100倍ですよ! 大人を信じている子供を裏切ることにはなりませんか!
 そして、なぜ子供が被曝しているかというと、自分の意志でも、日頃の行動でもなく、東電がミスしたからで、あなたは東電のミスを子供のガンで購おうとしているのです。」
(全体としては間違いがないと思いますが、数字が多いので、もし詳しい方がおられたらチェックをお願いします。)(平成23年8月22日)」
出典:takedanet.com/2011/08/post_5847.html