ルカーチの媒介

ルカーチの著作におけるキー概念のひとつは媒介である。それが意味するのは、社会的「事実」は存在しない、ということである。すなわち、社会的現実のいかなる面も、最終的な形である、あるいはそれ自体で完結していると観寮者に理解されることはありえない。媒介という考え方は次のことを認める一一諸事実の個別的な「直接性」は、生成の過程にある「全体的な」現実によって不断に凌駕され続ける。そして、直接性のこうした乗り越えを実現するためにプロレタリアートの意識がとるべき唯ーの形式は、共産党である。古典的なドイツ観念論〔理想主義〕の最終目標は、客観的現実としての自由と、人類愛それ自体によって作り出されるものとしての自由とを統ーすることであった。この目標の実現をルカーチは目指したのである。それは、ルカーチ自身がのちに言ったように、「ヘーゲルを超ヘーゲル化する※」試みだった(p.88)。
ルカーチ著作集第2巻への序文、1967年(英語版?)

ルカーチの主要な関心は物象化にある。すなわち、歴史の
資本主義段階において、もろもろの社会的存在が「物象」へと変えられ、意味の世界が空洞化されることである。あらゆるものは物象化されて〈商品〉となり、その結果、人聞が生産した世界が、人聞に敵対的で疎遠なものとなる。このことをヘーゲルは「疎外」と呼んでいたが、マルクスは「商品
フェティシズム[物神崇拝]と分析した(p.89)。

ハワード・ケイギル, アレックス・コールズ, リチャード・アピニャネジ『ベンヤミン』久保哲司訳、筑摩書房、2009年