両生類と生物多様性の危機

【リード】パナマの森林で両生類30種が絶滅
「“壊滅的な”疫病の流行によって、パナマの両生類30種の地域個体群が絶滅したという新しい研究が発表された。そのうち5種は、まだ新種として公式に認定されていないという。/絶滅の原因となったのは、1980年代後半から中南米やオーストラリアでも両生類の激減を引き起こしている致死性のツボカビである。ツボカビは両生類の皮膚に感染し、感染すると皮膚がはがれ、こん睡状態に陥り、体重が減少し、最終的には死に至る。/差し迫るツボカビの侵入に備え、1998年から2004年にかけてエルコペの森林地域に生息するカエルとサンショウウオの複数の種から遺伝子情報の採集が行われた。/研究チームを率いたコロンビアの首都ボゴタにあるロスアンデス大学の進化生物学者アンドリュー・クロフォード氏によると、ツボカビの感染がエルコペ全域に拡大したのは2004年で、森にはカエルの死骸が散乱していたという。ツボカビについてはまだ不明な点が多く、感染の進行があまりに速いため、研究者はその破壊の推移をほとんど追跡できないでいる。/しかし今回エルコペの研究チームは、遺伝子データベースを活用してツボカビの流行前と後のデータを比較し、ツボカビへの感染により絶滅した種を正確に特定することに成功した。その中にはわずかではあるが、まだ種として認定されていない未確認種もあった。/「新しい種が発見されると同時に絶滅した種も特定されている。この2つの相反する動きはある時点でどこかでぶつかるはずだ」とクロフォード氏は語る。/ツボカビがエルコペを襲う前、クロフォード氏の研究チームは4平方キロの森林地帯に生息する63種のカエルとサンショウウオからDNAサンプルを採取していた。そして、既に種として特定されている両生類を集めた大規模な遺伝子データベースにその情報を加えた。/研究チームは、種が確認されていない標本を既存の遺伝系統と照合する方法で、ツボカビの感染が爆発的に拡大する前の森で採取した標本の中から未確認種を11種発見した。/感染拡大後に行われた2006〜08年の調査で、63種のうち25種が森から消えたことが判明した。そのうち5種は、先に見つかった未確認の11種の一部だった。/今回の研究によれば、個体数が前回の調査から85〜99%減少していた種が9種あったという。これらの種が地球上から絶滅したわけではないが、クロフォード氏によれば、被害を受けていない地域に生息する同種の両生類がエルコペに移り住むという「期待はあまり持てない」という。これまでにコスタリカなどで実施された実験によれば、ツボカビの波が襲った後にカエルの個体数が回復することはない。/クロフォード氏によると、カエルが森にいないと生態系全体に影響が及ぶ可能性があるという。まず、オタマジャクシが河川環境に欠かせない存在なのだ。オタマジャクシは川床に生えるコケや藻を食べることで、食物連鎖の上位にいる動物が必要とするタンパク質などの栄養素を取り込んでいるからである。/クロフォード氏の指摘によれば、ツボカビの感染が拡大した原因は不明だが、人や物資の相互の結びつきを強めたグローバリゼーションが鍵を握っている可能性がある。/一般的に、爆発的感染拡大は、新しい病原体が生態系全体を破壊させることもあるという“警告”のようなものである。ツボカビの感染力は非常に強力であるため、たとえば遺伝子的にはネズミとクジラほども離れた遠縁のカエルの種間でも感染して絶滅させることができるとクロフォード氏は語る。/「このような病原体が哺乳類を襲わないでもらいたいものだ。しかしこれは、将来の姿を示すほんの一例かもしれない」とクロフォード氏は語った。/今回の研究は、2010年7月20日発行の「Proceedings of the National Academy of Sciences」誌に掲載された。/Christine Dell'Amore for National Geographic News」(source: zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20100721-00000001-natiogeo-int)