模擬患者という当事者について

まず最初の問題は、その「模擬患者」という属性をどのように証明するかですね?
 キャリアーという観点からみると、模擬患者というのは、報酬無報酬の区別に関わらずパートタイムの「職業」ということですので、過去にそのような経歴があれば、それを証明するものをもって「模擬患者」という職業の属性ないしは資格を認定するしかないような感じがします。でも、そんな証書を維持している人はとても少ない。仮に、模擬患者にフォーマルな属性を与えるために、非常勤講師やTAの資格を与えてしまうということがその人の活動機関で認定してしまっていると、他の会員との区別をすることが困難になります。
 また「模擬患者」という資格という点では、そのような認定制度はない現在では、架空のものです。
 疑似患者ではなく、仮想の患者という点では、ある患者が、別の社会的文脈のなかでは、模擬患者になりえることができます。
 というわけで、模擬患者という参加者の属性を証明することが、現実的に難しいということです。
 先に書きましたように、ある発表の協力者として当該の研究発表に参加したいということであれば、その方の自由意志で参加するのであれば、一般参加と同じカテゴリーで処するべきです。でも広く、ヘルスコミュニケーション研究と教育に寄与している人たちと認定すれば、さまざまな優遇措置をすべきかと考えます。しかし後者の場合、冒頭での属性の証明が困難なため、この措置の設定にはさまざまな議論を呼び、簡単には決まりそうもありません。また、研究発表者が、模擬患者を研究会や当該の研究発表に招致するのであれば、スポットで無料参加を認めてもいいと思います(=アド・ホックに参加を黙認する)。それがかなわない場合は、原則として発表者がその費用を負担すべきもの(=原則主義で一般会員と同じ処遇をする)で、(定義の困難な)模擬患者のカテゴリーをわざわざ設けて準備するのは、将来にわたってさまざまな事務上の制約をつけることになります。そもそも共同研究者あるいは協力者であるインフォーマントを学会に参加してもらうというのは、「招待行為」であり、他の研究発表と同じ資格と処遇をする必要はないと考えます。
 このことは、当事者研究のことを想定していただければよいわけで、模擬患者が会員として発表することもあり得るわけで、模擬患者であってもそこに区分をもうける必要性はなにもないと考えます。(この議論で気づいて面白いと思ったのですが)ヘルスコミュニケーション研究では、模擬患者も当事者研究の当事者になりえるのだなと思いました。大変興味深い!)