水俣の友人たちへの手紙

水俣病センター相思社 御中

最終解決に関する特別措置法案に関するお知らせどうもありがとうございました。
私は法に疎いものですから、この複雑怪奇な文章が、相思社の指摘にある「チッソの分社化」という予備知識なしには、読むことができませんでした。
西暦2001年以降、水俣問題――病ではなくコミュニティそのものの混乱とねじれ――の解消を「最終解決」という文言で表現することに、特段の違和感を持っておりました。あるいは、そういう語彙は使ってほしくない。
歴史を紐解けばすぐわかるように「最終解決」とは、ナチスユダヤ人虐殺の国家計画を意味する言葉でした。そのため第二次大戦後の国家的な虐殺計画あるいは「民族浄化」などについての、暗に表現する場合にこの「最終解決」という言葉が頻繁に引用されてきました。
相思社を含む広範な社会運動は「水俣病は終わらない」というスローガンのもとに続いてきましたが、それは「水俣病問題を(政府の一方的な事情により)終わらせてならない」という意味があったものと、私は理解しております。
したがって、もしありうべき実践の用語に名前をつけるとしたら、それは「最終解決」ではなく、「永続する対話」であり「あらゆる社会生活の根底における和解」ではないかと思います。
しかしながらこの法律案には、そのような発想はまったくなく、これまでの長きにわたる濃密かつ複雑な社会闘争はしごく単純に「水俣病に係わる紛争」(第3章第6条1の(三))と一言で述べられているわけです。まさに呪われるべきは、このような現実逃避的態度ではないでしょうか――あまり糾弾モードになるのもマズイですが。
すでに死んでいる(あるいは県や国家により)生きているふりをさせられている「関係事業者」を分社化して、すべての患者の救済を求める原則そのものに異論はありませんが、これまでの法律などとの整合性や調和――というよりも齟齬を回避するために屁理屈を捏ねまくる――を図るために、素人には分かりづらい条文はなんとかならんのかと思うのが正直なところです。
いずれにせよ、反面教師とは言え深く考えさせられるものです。できれば、体質は自公と変わらない民主党の対案というのも、是非観てみたいものです。そして「最終解決」という恐ろしい文言がそこにも果たして観られるのでしょうか。
今回のお知らせを含めて有益な情報提供まことにありがとうございます。

【資料篇】
相思社からのメールニュース
───────────────────────────────────
(1)与党PT救済法案 全文掲載
───────────────────────────────────
相思社ホームページに
水俣病被害者の救済及び水俣病問題の最終解決に関する特別措置法案」
の全文を掲載しました。

http://www.soshisha.org/kanja/2009kyuusai_houan.html

あえてコメントをつけませんが、読まれた感想をいただけると幸いです。
昨日与党法案をお送りしましたが、追加された前文が明らかになりましたので、
ホームページに追加でアップロードいたしました。

http://www.soshisha.org/kanja/2009kyuusai_houan.html

                                      • -

(前文)

 公式確認から五十年以上が経過した水俣病は、我が国における公害問題の原点であり、地域住民に甚大な健康被害をもたらしたばかりでなく、地域社会にも広範かつ重大で深刻な影響を及ぼした。
 これまで水俣病問題については、平成七年の政治解決等により紛争の解決が図られてきたところであるが、平成十六年のいわゆる関西訴訟最高裁判所判決を機に、新たに水俣病問題をめぐって多くの方々が救済を求めており、その解決には、長期間を要することが見込まれている。
 こうした事態をこのまま看過することはできず、公害健康被害の補償等に関する法律に基づく判断条件を満たさないものの救済を必要とする方々を水俣病被害者として受け止め、その救済を図ることとする。これにより、地域の方々が水俣病の苦難の歴史から解放されるよう、地域における紛争を真に終結させ、水俣病問題の最終解決を図り、環境を守り、安心して暮らしていける社会を実現すべく、この法律を制定する。