ヴァーチャル研究室:行動戦略機能学研究室

◎行動戦略機能学研究室
(研究課題名:実験室における社会実践:行動戦略機能学の構想)

ヒトを含む霊長類は、他の哺乳類同様、社会集団を形成する生活形態を有している。
組織機能論という立場からみると、社会集団とは、ある組織内においてそれぞれの個体の行動が、直接的あるいは間接的に集団全体に影響をもたらし、個体の行動の総和以上の行動学的成果をもたらすことを、保証する時空間フィールドのことである。認知プロセスにおける神経生物学的斉一性に比して、個体の行動パターンには生物種による多様性がみられ、さらに高等霊長類においては、個性的行動が派生する。そして社会行動のレベルではサブカルチャーといわれる継承行動の地域的変異など、豊かな多様性が登場する。人間集団における言語や文化の多様性という現象もまた、このような知と行動の生物学的系譜の一端に位置する。
本研究室では、研究者集団の「実験室における作業(laboratory work)」を、文化人類学のフィールドワーク調査法ならびにエスノグラフィー(民族誌)作成技法を通して、知と行動研究センターが構築する研究者集団にみられる行動連関の文化的構造について明らかにする。
これまでの文化人類学研究は、多様な人間社会の構造や機能を明らかにすることを主目的として、その研究対象を海外の異文化のフィールドに求めてきた。しかし1970年代以降、「認知と実践」研究と呼ばれるようになる心理学や文化人類学の学際集団は、その研究対象を、学校や職場、ボランティア集団など、現代人の日常の生活空間の基盤をなしている現場に求めるようになった。そこでは、観察やインタビューを通して微小社会空間における行動と認知に関わる実践の有り様が明らかにされ、より長いタイムスパンにおいて、それらの行動がいかなる形で社会的事実として結実するかについての研究が進展している。科学者集団が研究をおこなう目的は、学問的真理の探究に他ならないが、それが公的活動として社会的に容認されるためには、その成果の還元が不可欠とされる。そのために研究者間の豊富なアイディアが結集され、潤沢な研究資金が有効的かつ継続的に供給されることを通して、目標が達成される。この現象は高等霊長類の行動戦略という観点から分析可能になる。
知と行動センター(構想)において、真理を解明する人間集団そのものを研究対象とし、同時に研究の枠組みをリフレクシヴ(自己反省的)にみるメタ研究が必要とされるゆえんである。したがって本研究室は、上記の研究を通して、センター内の研究室間の交流を促進する媒介的場(フィールド)を提供すると同時に、外部社会に対して倫理的プレゼンスや広報など種々の社会サービスを提供するセンターの窓口的機能をも担う。