他者性に取り憑かれた学問

mitzubishi2007-11-08

 西洋近代が産んだ独自の知的認識において〈他者〉あるいは〈他者性〉をめぐる様々な学問が生まれた。いわゆる近代主義的な人類学は、〈異文化の他者〉をつよく意識したもののひとつであった。人類進化論、精神分析コロニアリズム民族誌学、オリエンタリズムなど〈他者性〉をめぐる学問的議論には、知と権力の結びつきという批判的テーマが一貫してみられる。具体的には、人類の多様性の中における「野蛮人」や「未開人」――白人中心主義的な用語なので現在はこれらの用語は使われません――の位置づけ、自己の内なる他者、統治対象としての他者、他者の表象化と権力との結びつきといったように、〈他者〉をどのように理解し、自己の世界の中に取り込むのかというテーマが色濃く投影されている。医療人類学もまた(あるいはそのアバンギャルドとして)つよく〈他者性〉に取り憑かれた学問のひとつである。医療人類学者は、普遍的な医学現象と同時につねに具体的な他者の医療・保健行動への関心をもち、それらを論文のテーマにしている。医療人類学のトピックは〈他者〉や〈他者性〉を切り口とし、病気や医療について考えることであると言っても過言ではない。(この情報は「教育に携わる人のための文化人類学入門」を若干改稿しました。)