豚児への手紙

◎◎君へ
 今は、私は、フォイエルバッハキリスト教の本質」にちょっとはまってますが、君が(琉球の当該学科で)沖縄で勉強するのに面白そうなテーマについて思いつきました。図書館などで、ここで書いてあることをメモっていろいろ調べてみてはいかがですか?
 まず、図書館の参考図書コーナーで百科事典などから項目を調べてみましょう。それは、
伊波普猷(いは・ふゆう)とスピノザの比較研究」です。
伊波普猷は、1876-1947の沖縄学の創始者スピノザは17世紀の哲学者。住んだ時代も文化も、経験したことも全然ちがいます。
伊波は沖縄の知識人ですが、沖縄の文化やアイデンティティに深く傾注した人です。もちろん伊波の研究者や研究書は、沖縄にごまんとあります(県立図書館の館長の経験者:『伊波普猷全集』平凡社)。伊波とスピノザの接点は、政治思想や国家論でしょうか。スピノザ『神学・政治論』『国家論』『エチカ』など。
 たぶん、このアイディアをふつうの研究者なんかに話しても、お前はアホかと思われるでしょう。でも、さまざまな政治的文化的状況に行き、そこから思索をして、自分の独自の文化論・政治論を形成したという点では、伊波とスピノザは時空間を離れて、いろいろおもしろい、類似点と相違点がみつかるかもしれません。また、こういう比較文化研究ネタをもっていると、海外に留学する時に、受け入れ先の学部の先生などから、興味を持たれるでしょう――ヨーロッパでスピノザのことを知っているのは普通だが、ヨーロッパで伊波のことを知っているのは、ウィーン大学の日本学の研究者など限られた人たちしかいない。つまり、伊波のことを知っていると、ヨーロッパで重宝されるということです。おまけに、スピノザと重ね合わせて、先のことと論じると、ますます、関心を呼ぶことになりましょう。
 完全な思いつきですが、世紀を変えるというのは、こういう目茶苦茶な発想から生まれるのです。