新種の仮想病気を増殖させる「負のワクチン」

 東京の人たちとメールや電話で話したところ、俺達の想定以上の混乱が現地でおこっているらしい。大阪では、東京から出張できた人たちが乾電池を買い占めてほとんど売り切れていたことを、うちの東京在住のスタッフも(おなじような行動に出て)報告していた。つまり同じ穴のムジナ。
 俺、思うけどね、本当に救護がひつようなのは、現地の人たちだが、その次に援助が必要なのは、自分たちを含めて、罹災地の周辺でパニックに陥って、理不尽な買い占めをする罹災地の周辺の人(=首都圏の了見が狭くなった心の貧しい人)だと思う。
 罹災者の援助のシステムを健全に回すのは、植民地の領主様のような根性でもなく、援助の犠牲者に感情移入した後に自分だけは助かろうという信念を新たに(事後的に)獲得する人たちではなく、共に助かろうとする健全な同胞意識の人たちだけなんじゃないかなと思う。
 いまの大阪や九州は、まだ牧歌的なこと――僕は地震のあったときに沖縄で現地で知り合った東北大学の考古学者の人といっしょにミニ・ネイチャー&ヘリテージツーリズムのガイドツアーに出るとことでした――言ってられるけど、もう関西でも、東京でのモラルパニックの影響を受けて、買い占めが始まっているらしい。
 被災地には犠牲者がいるから、みんなそこにラッシュアワーのように押し寄せるというのは、[開発モデルの]悪しき軍事主義の伝統(=悪弊)だと思う。おまけに後背地(=つまり今の東京)では、気軽なジョークを不謹慎だと、あらぬ善人の道徳をでっちあげて、取り締まる(その影では、とにかく必死こいて買い占めに走るわけだ)
 被災地の周辺部ひいては援助側の俺達の可愛そうシンドロームと、それの陰画の自分は助ける側=自分は犠牲者になりたくない側[の抑圧]という我執が、悲劇をもっと悲劇にするんじゃないかなと思う。餓死したりアル中で行路死するホームレスは、俺達の足下にいるのに、それに眼をつぶったあげくの果てに、真新しい[つまり臭ってこない]遠方の犠牲者に涙を流す。メディアが、この種の新種の仮想病気を増殖させる「負のワクチン」を接種しまくっている感も、さほど偏執的とは思えない。
ごめんな、Apocalypse Now のカーツ大佐みたいな口をきいて
げんのすけ