墨塗り教科書の神話学

《墨塗り教科書の神話学》
 ウィキペディアYahoo!知恵袋などのネトウヨが盛り上がるページには、日本の敗戦後の軍国主義時代の教科書の墨塗りをあたかも「進駐軍GHQが、直接命令を下して実行させた旨の誤った(あるいはこれこそまさに「自虐史観」的な記述がほからなぬ)ネトウヨが騒いでいる。馬鹿な歴史捏造に叱責するのはアホらしいが、僕は、長年、墨で塗りつぶすというカルチャーがないGHQのメンバーの出身地の文化がなぜそれを可能にしたのか不思議におもってきた。言うまでもなく、戦後の教育現場に軍国主義教育の復活があってはならない「原理や施策」の指示はGHQにある。しかし、それを具体的に考案し通達したのは当時の文部省(の官僚)である。なぜなら墨で塗りつぶされる予定の《教科書しかなかったから》なのである。そのため(もの不足の戦後に優先して新規に印刷など適わず戦前の)教科書を使わざるをえない教育現場に即応しなければならない現場にマッチする《実質的な戦前の教科書の再利用の方法》であったのだ。それは教育現場では、教師たちに墨をぬらせ《教育制度の変革》があったことを自覚させ、かつまた(宗教の改宗にも似た)儀礼的行為でもある。そのため、戦後の教育史のなかでも、この出来事はよく覚えられているが、自分たちの文科省が具体的にその方法を詳細に指示したにも関わらず、「原理や施策」の理念だけをオーダーしたGHQにその命令=押しつけの根源があると、錯認しているのである。これは、現在では誤った疑似心理学風説明としてされている、強姦魔としての黒船と、日本=手弱女被虐説、あるいは去勢恐怖説の変奏であることは言うまでもない。敗戦後日本におけるGHQへの服従の《政治的儀礼》は、日米双方が知恵を出し合う複雑な手続に基づいていたことを我々に再認識させるわけだ。
終戦ニ伴フ教科用圖書取扱方ニ關スル件」(昭和20年9月20日終戦教育事務処理提要 / 文部省大臣官房文書課編. 第1輯
http://crd.ndl.go.jp/reference/modules/d3ndlcrdentry/index.php?page=ref_view&id=1000085219
追加:
なお、増田史郎亮「墨ぬり教科書 前後」長崎大学教育学部教育科学研究報告, 35, pp.1-10; 1988に詳しい情報がある。